こどもの緘黙に対しての理解とカウンセリング(心理療法)について書いていきたいと思います。

※学術的な内容も記載しているため、読みやすいところからでもぜひご覧ください。

場面緘黙とは何か?


緘黙とは、言葉の理解があり、発声器官などに問題がないにもかかわらず、社交不安などの影響で話せなくなることです。

すべての場面で話せない「全緘黙」とある特定の場面において一貫して話せない「場面緘黙(selective mutism)」があります。

原因としては社交不安などの心因的な要因が関係していますが、発達障がいの影響による場合もあるといわれています。

2~5歳の幼少期に発症することが多いとされていますが、それ以降の発症もあります。

緘黙による影響では問題行動をあまり起こさないため、家族や周囲の方が治療が必要と感じる動機が少なくなってしまうことがあります。そのため必要なサポートや治療などが遅れる傾向があるともいわれています。

日本の学校現場を対象とした複数の調査(金原, 2012; 高木, 2017等)およびレビュー論文に基づくと、以下の数値が一般的です。欧米の 0.7%〜1% という報告に比べると、日本の調査での出現率:0.2% 〜 0.5% 前後ではやや低く出る傾向にありますが、これは診断基準の厳密さや、調査対象となる学校の規模に左右されます。「1,000人に2〜5人」、あるいは**「小学校20クラスに1人程度」**という割合が、日本の教育現場での実感に近い数値として引用されます。

男女比:約 1 : 1.5 〜 2.0 ※金原(2021)らの臨床統計でも、医療機関を受診するケースは女子が男子を上回る傾向が示されています。

近年の日本の研究(角田, 2021; 丹明彦, 2024など)で最も強調されているのは、自閉スペクトラム症(ASD)や知的能力障害、言語発達遅滞との併存です。→ASD併存率:約 30% 〜 45% ※日本の医療機関(小児神経科等)を受診した場面緘黙児を対象とした調査では、約3割から半数近くにASDの診断、あるいは強い特性が認められるというデータがあります。

場面緘黙児の 80% が何らかの不安症を併存し、そのうち 69%が社交不安症(SAD) を持っています。

2021年〜2025年の複数の研究で、場面緘黙児の 約11.7% 〜 62.9%(研究手法により幅あり)にASDの特性、あるいは診断が認められると報告されています。「話せない(緘黙)」の背景に、実は「コミュニケーションの困難さ(ASD)」が隠れているケースが少なくないことが科学的に裏付けられつつあります。

参照:Driessen, J., et al. (2020). Rodrigues Pereira, et al. (2025). Vogel, F., et al. (2024/2025). 金原洋治 (2021). 『場面緘黙の子どもへのアセスメントと支援』高木潤野 (2017). 「場面緘黙をめぐる現状と課題」 日本小児科学会雑誌 角田圭雄 (2021). 「場面緘黙の理解と支援」 精神科治療学


場面緘黙の原因や要因には、生まれつきの本人の性格や発達と環境要因、そして社交不安などの心理的状況が複雑に関わっているといわれています。

もう少し詳細にすると、

  • 他者との関わりなど外界から受ける刺激が強すぎると感じてしまうため、その刺激から自分を守るために反応している
  • 恥ずかしい気持ちが人より強い
  • 人の目やどう思われているかが気になってしまう気持ちが強い
  • 完璧主義や失敗を恐れる
  • 内気や警戒心の強い性格
  • 感受性が高い(HSCも含む)
  • 感覚過敏
  • こだわりや特性が強い
  • 自分の気持ちや相手の気持ちがわかりづらい特性
  • なんていえばいいのかわからない
  • 緊張しやすい
  • 失敗や恥ずかしい体験、人間関係のネガティブな出来事などがあった
  • 大きな環境の変化や人間関係の変化についていけなくなった
  • 発達への遅れや凹凸などの影響がある(障がい診断とは限らない)
  • コミュニケーションスキルや会話などへの苦手さ(未習得)によるもの
  • 人間不信・対人恐怖や不安
  • 今の環境への大変さ(適応が難しい)
  • 家族や対人との関係性
  • 不安に対して対応できるスキルの未獲得
  • 安全や安心を感じられる場面の少なさ
  • トラウマ
  • 外的プレッシャーと内的プレッシャー(自分自身への)が強いもしくは強く感じる
  • 発表やスピーチ、音読などへの苦手さや恥ずかしさ
  • 社会不安や社会恐怖(グループや集団への不安や恐怖)
  • 「あいさつしなさい」などの発声指示が重なりすぎた故の抵抗感覚
  • 分離不安(お母さんがそばにいないと安心できない)

などの影響が考えられます。

場面緘黙を身体視点から理解する


場面緘黙の様子を身体から理解すると以下のような4つの大きな生理的プロセスがあるといわれています。

扁桃体による「警報システム」の誤作動

脳の奥深くにある扁桃体(Amygdala)は、周囲に危険がないかを察知する「火災報知器」のような役割を担っています。

  • 過敏な反応: 場面緘黙の子どもは、この扁桃体が非常に敏感です。安心できる家庭以外の場所(学校など)に入ると、脳がそこを「生命を脅かす危険な場所」と誤認し、強力なアラームを鳴らします。
  • 闘争・逃走・凍結反応: アラームが鳴ると、脳は生き残るための生存戦略を選びます。場面緘黙における「話せない」状態は、この中の「凍結(フリーズ)」反応に近い状態です。

自律神経系の「シャットダウン」

扁桃体からの指令により、自律神経系が即座に反応します。

  • 交感神経の急上昇: 心拍数が上がり、呼吸が浅くなり、全身が緊張します。
  • 背側迷走神経の活性化: 恐怖がピークに達すると、多重迷走神経理論(ポリヴェーガル理論)で説明される「背側迷走神経複合体」が働き、不動化(動けなくなる)が生じます。
    • この時、体は自分を守るための「死んだふり(息をひそめる)」に近い状態になり、発声に必要な筋肉や神経のコントロールが制限されます。

身体的な「ロック」:喉と口の筋肉

生理的な緊張は、具体的な身体症状として現れます。

  • 声帯の硬直: 恐怖によって喉の周りの筋肉が強く収縮し、物理的に声帯が震えにくい状態になります。「声を出そうとしても、喉が塞がっている感じがする」と回想する当事者は多いです。
  • 表情の消失: 顔面の神経も緊張の影響を受けるため、表情が硬くなり、まばたきが減るなどの特徴が見られます。これは「感情がない」のではなく、「緊張で顔が動かせない」状態です。

前頭前野(理性的思考)の機能低下

本来、脳の司令塔である前頭前野が「ここは安全だから話しても大丈夫だよ」と扁桃体をなだめる役割を果たします。

  • ハイジャック状態: 場面緘黙が生じている最中は、扁桃体の興奮が強すぎて前頭前野の機能が抑えられてしまいます(アミグダラ・ハイジャック)。
  • そのため「先生に返事をしなきゃ」という理性的な思考があっても、身体的な拒絶反応を制御できないという現象が起こります。

場面緘黙への理解


選択性緘黙という名称から場面緘黙に変わりました。

「話さない」などの本人が選択しているのではなく、「話せない」という大変さを抱えている状態になります。

その当事者の気持ちや視点が理解しやすいものとして以下の動画を紹介します。

Johnson & Wintgens (2001) の診断分類の紹介


場面緘黙についてもう少し踏み込んで理解していくために以下の4つの分類を紹介します。

① 場面緘黙傾向 (Selective Mutism Tendencies)

完全な無言ではないものの、特定の状況や相手に対して著しく口数が減ったり、ささやき声になったりする状態です。

完全に話せないわけではないため、「少し恥ずかしがり屋なだけ」と見過ごされがちですが、本人の内面では強い不安が生じています。

② 純粋な場面緘黙 (Pure Selective Mutism)

言語発達や知能、他の精神医学的障害がなく、「不安」のみが原因で特定の場面で話せなくなる状態です。

家庭内では極めて雄弁で活発なことが多く、学校など特定の社交場面でのみ凍結反応が起こります。

③ 話し方や言語の障害を伴う場面緘黙 (SM with Speech and/or Language Difficulties)

構音障害、吃音、言語発達遅滞、あるいは言語やコミュニケーションの苦手さなどが背景にあるケースです。

「自分の話し方がおかしいのではないか」「うまく伝わらないのではないか」という言語への自信のなさが不安をさらに増幅させています。

④ 複合的場面緘黙 (Complex Selective Mutism)

医療的・環境的・情緒的な他の深刻な問題を抱えているケースです。

虐待やトラウマ、極度の家庭環境の不安定さ、あるいは自閉スペクトラム症(ASD)やADHDなどの神経発達症が複雑に絡み合っています。

年齢別の症状変化


日本の臨床統計による、年齢別の症状変化の推移は以下のような研究があります。

年齢層傾向
幼児期〜小学校症状が最も固定化しやすい時期。自然治癒を待つより早期介入が推奨される。
中学生悪化傾向を示す者が約半数。思春期の自意識の高まりが影響する。
高校生以降改善傾向に転じる者が最も多い。自立への意識や環境選択が要因。

参照:中村, 2021

注意すべき点


日本の研究など(高木, 2017; 金原, 2021)では、「放置して自然に治るのを待つリスク」が指摘されています。※自然治癒が起きる場合もあるので一概にはひとくくりにはできないですが。

  1. 回避の固定化: 「話さない」という回避行動が数年続くと、脳の回路として固定され、話せるようになるまでの心理的ハードルが高まることがあります。
  2. 学力・社会性の損失: 話せない期間、授業参加や友人関係の構築が制限されるため、症状が治まった後に「同年代との学力や社会スキルの差」に苦しむことがあります。
  3. 二次障害: 自然治癒を待つ間に、抑うつや強い社交不安症を併発するリスクが高まることがあります。

場面緘黙についての治し方や改善方法


名古屋こどもカウンセリングとSST教室での改善方法は、

①理解をする

②安心と安全を増やす

③改善したい気持ち、したくない気持ちを理解する・アプローチする

④心理療法を用いる

などの流れで進んでいきます。

場面緘黙という名前があってもお子さま一人ひとり個性が異なりますし、背景や状況も違います。

こちらではその子に合った方法を選択的に用いる統合的アプローチで行っております。

またご家族の協力や理解を深めていく作業も同時進行で行うことが非常に大切です。

①理解ファースト

まず「その子」への理解を深めていきます。

どんな大変さがあるか?

どんな影響や原因でなっているか?

どんな安心や安全を求めているか?

周囲に何を求めているか?

治したいか?改善したいか?そのままでいたいのか?

発声以外のかかわりでしやすい方法は何か?

コミュニケーションや初校生で大変なのは何か?

理解という言葉は簡単に使っていますが、実に奥が深いものです。

こちらにご相談いただく中で保護者さんの理解度が深まり、より良い関係性になることも少なくありません。

②安心の土台作り

場面緘黙の時に周囲の大人が「話させようとするプレッシャー」を徐々に取り除くことがスタートです。

非言語コミュニケーションの受容: 指差し、うなずき、筆談、カードの提示など、声以外のあらゆる意思表示を「正解」として認めてあげます。

安心できる環境と安心できる心理状態をできるだけ作っていきます。

そして安心できない場面での安心を増やす作業も行っていきます。

そのためには理解が必要です。

③治療したい気持ち(改善したい気持ち)

本人に改善したい気持ちや動機がなければなかなか心理療法などが行うのも大変であったりします。

そういった気持ちが出ない場合はその理由を聞いて理解していくことからスタートしていきます。

そもそも緘黙が大事な防衛であることも多くあります。

心理的成長によりその防衛が必要なくなるような状況になると改善欲求も高まっていきます。

お家の環境設定や関係性、学校や園などの状況などによってもこの辺りは変化していきます。

今は安全安心を欲しているときにはそれを確保しつつ、前に進められるようなかかわりが求められますが、お子さまの気持ちを度外視してはうまく進まないことがあります。

その場合は、保護者の方が先にご相談されると良い形になることが多くなります。

④心理療法

プレイセラピー(遊戯療法)

プレイセラピーでは、沈黙が許されており、話さなければいけないプレッシャーもありません。

遊びを通じて自分のストレスを発散したり、自己表現ができたり、主導権を持つことによりコントロール感覚を取り戻すことに役立ちます。

筆談や応答によるカウンセリング

筆談や応答ができる場合、簡単な質問に答えながら理解してもらう経験を味わうことができます。

またトラウマや自分のこころに向き合うことも筆談で行える場合もあります。

「何にする?」という自由回答(オープン質問)や、「やる?」というYes/No質問を避け、「Aですか、それともBですか?」と選択肢を提示します。

少しずつ行っていくことで慣れていき、応答への返答時間も短くなっていきます。

刺激フェイディング法

すでに話せる相手(例:母親)と話している最中に、話せない相手(例:先生)が少しずつ距離を縮めていく方法です。例えば別室で母子で話す → 先生がドアの外に立つ → 先生が部屋の隅に座る → 先生も会話に加わる。

段階的暴露

「話す」というゴールを細分化し、不安の低いものから挑戦します。

例えば、

  • レベル1: 先生の顔を見る
  • レベル2: 会釈する
  • レベル3: 「はい」「いいえ」を首振りやカードで伝える。
  • レベル4: 筆談や小声でコミュニケーション

のように階層に分けていきます。

実際はもっと細かくやりやすいように超スモールステップにしていきます。

    シェイピング法

    発音の前段階の動作を強化する方法です。

    口の形を真似する → 息を吐く音を出す → 囁き声 → 発生へと、近似した行動を順に定着させます。

    PCIT-SM(場面緘黙のための親子相互交流療法)

    PCIT-SMは、通常のPCIT(親子相互交流療法)をベースに、場面緘黙児の「話せない」という不安を「話せた!」という自信に変えるためのプログラムです。大きく分けてCDIとVDIの2つのフェーズがあります。

    ①CDI(子主導型相互交流):安心感の土台作り

    まずは「話さなくても受け入れられる」という絶対的な安心感を作ります。

    目標:不安を下げ、大人との関係性を強化する。

    やり方:1日5分、お子さんの主導で遊びます。大人はPRIDEスキルを徹底します。

    • P (Praise) 具体的賞賛:「色の使い方が丁寧だね」
    • R (Reflection) 反映:お子さんの言葉(独り言など)をそのまま繰り返す。
    • I (Imitation) 模倣:お子さんと同じ遊び方をする。
    • D (Description) 実況中継:「今、赤いブロックを積んでいるね」
    • E (Enjoyment) 熱意:一緒にいて楽しいことを伝える。

    禁止事項:質問、命令、批判は一切行いません(発話のプレッシャーをゼロにします)。

    ② VDI(言語主導型相互交流):発話を促す練習

    土台ができたら、段階的に発話を引き出すステップへ進みます。

    • 強制選択質問 (Forced-Choice Questions) 「何がいい?」ではなく、「青がいい?それとも赤がいい?」と、答えが明確な2択で聞きます。
    • 5秒ルール (The 5-Second Rule) 5秒反応を待ちます。回答があれば「教えてくれてありがとう!」と伝えます(褒めます)。

    ③フェーディング(スライディング・イン):場所と人を広げる

    カウンセリングルームで話せるようになったら、学校や他の大人へと般化(使えるように練習)していきます。

    • スライディング・イン手法:
      1. お子さんと親(または信頼している支援者)が楽しく話している部屋に、新しい支援者が少しずつ(スライドするように)近づきます。
      2. 最初は背を向けたり、他のことをしたりして存在感を消し、徐々に会話の輪に加わっていきます。

    ④勇気の強化(Bravery)

    PCIT-SMでは、声を出すことを「勇気ある行動(Brave talking)」と呼びます。
    ブレイブ・バディ(Brave Buddy): 支援者は「勇気を出すための相棒」として振る舞います。
    報酬系: 発話できたことに対して、その場でシールをあげるなど、ポジティブなフィードバックを即座に行います。

    おわりに


    場面緘黙を改善したり、治していくことは大切ではありますが、

    「自分の意思で、伝えたい相手に、伝えたい方法で意思表示ができ、社会の中で孤立しないこと」

    が最も大事なところだと思っております。

    喋らないことで身を守っていることもあります。

    今は場面緘黙が必要な場合もあります。

    そのあたたかなまなざしが周囲にできてくると進み方も良い方向に向かいやすくなります。(最初はできなくて当たり前ですのでご心配なく)

    場面緘黙の必要性がなくなって

    伝えたい方法で意思表示やコミュニケーションが取れるようになりますように

    ご相談に応じ、ご家族や周囲の方々と協力しながら進めていきたいと思います。

    またある程度の人数が増えてきたら場面緘黙のお子さまだけの小集団もできるかもしれません。

    長い記事になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。

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    参考文献:日本場面緘黙研究会

    Kurtz, S. M. S. (2020). Selective Mutism: An Evidence-Based Guide to Diagnosis and Treatment. (場面緘黙の診断と治療に関するエビデンスに基づいたガイド)

    Eyberg, S. M., & Funderburk, B. W. (2011). Parent-Child Interaction Therapy Protocol.